講座
交代菌症について
水野 重光
1
1順天堂大学婦人科
pp.18-26
発行日 1957年11月1日
Published Date 1957/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201367
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交代菌現象とは
ペニシリンの発見以来これに続いて登場した抗生物質は枚挙にいとまがないほどである.それぞれの抗生物質に特有の強い抗菌作用により治療面に貢献している功績は偉大なもので,現今抗生物質を中心とする化学療法の進歩は目覚しい.然し一方において抗生物質の普及に伴う障害或いは副作用も少くはなく,その無計画の使用は厳に戒められるに至つた.その障害或いは副作用のうち重要なものとしては耐性菌の発生,過敏症,交代菌現象等を挙げることができるが,このうち特異のものとして注目されているのは抗生物質使用によつて起る交代菌現象である.
ある疾患の病原体となつている細菌,即ち起因菌に対し有効とされている抗生物質を使用すると,その細菌は感受性があるため漸次消失するが,その抗生物質に対し感受性がなく,抵抗性を有する微生物,即ち耐性菌は反対に繁殖する.その微生物は体内のその部分に始めから棲息している場合もあるし,後から起因菌に代り出現,繁殖する場合もあり,先きに存在した起因菌に代つて増殖し,その病巣を受け継ぐようになる.このことを交代菌現象といい,その結果新しい病態を発する場合,これを交代菌症と呼んでいる.
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