社会,動向
女性はなぜ山に登れないか
長谷川 泉
pp.68-69
発行日 1956年8月1日
Published Date 1956/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201110
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たわいのないような話であつたが,新聞に報じられたから,御気づきの方があつたと思う,女が登れない山があるという.その名は大峯山という.もちろん,か弱い女性の身ではマナスルのような峻嶮に登るべくもないというような意味での女が登れない山ではない.要するに,不浄の女性が登ることはいかぬという意味において,あるいは,いままでに女性の登ることを許さなかつたから,その慣習を破ることは出来ないという意味において,女性が登ることが出来ないという話なのである.ことは宗教的な問題にかかわつている.宗教的な意味において,とがめを受けるとか,あるいは山の神厳性や崇高さをけがすということであろう.
この山には,かつてアメリカの女性を先頭に登山が企てられて失敗し,いままた登山を名のり出た勇ましい女性が地元の反対にあつて挫折しようとしている.このような山は,あるいはほかにもあるかもしれない.いや山ばかりではない,そのような学識は,たゞに大峯山のみに限らず,いまだ日本にびまんしている風潮であるかもしれない.原子力が云々される,この20世紀において.
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