映画製作のうら話

　何の仕事にでも裏方とか下方とか，とかく人の目にはつかず，いわば縁の下の力持ち的な仕事がつきまとうものであるが，特に映画のような派手な仕事にあってはそれだけ目に見えぬ労働が必要となるのである．映画の雑誌をひろげてみても，新聞の映画記事を見もて俳優とか監督とか華かな方面については毎回無制限に紙数が費されているが，こと裏方の仕事となるとほとんど一行もこれに触れている記事を見かけないといつた有様である．

　そこでここにはあえて一般映画ファンから余り顧みられないような面からひとつの特殊な仕事を拾つて解説を試みたいと思う．映画を見るほどの者ならば，どのフイルムにも先ず最初には製作会社名，配給会社名，監督，俳優，音楽をはじめとし，時代考証，衣裳，美粧からはてはスクリプトガールにいたるまでありとあらゆる仕事に携つた人々の名を綱羅したタイトルが延々と映写されることを知つているであろう．ところが一般の映画フアンにしてみれば映画の題名や監督，俳優の名前の紹介ぐらいはある程度の興味が持てるとしても，その他大勢の部になると興味が持てないぐらいはまだしもとして，果ては退屈となり，いらいらしはじめるがおちで，客席のところどころであくびをかみ殺す観客が現れるのはざらである．