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読書雜感
牧 恒樹
pp.55-56
発行日 1953年9月1日
Published Date 1953/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200444
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よく電車の中などで,いとも無造作に本を折りまげて読んでいる人や,丸めて持つている人を見かけると,何となく嫌な心持になる.それは,自分の持物の取扱が余りおそまつではないかという感じがそんな気を起させるのでもあるが,本は財布や化粧品とちがつて,それを通じて自分の教養が高められ,精神が形成されてゆく媒体である譯だから,もつと丁寧にとりあつかつてもらいたいという気が起るのである.
昔,何とかいう漢文の大学者は,弟子に講義をする時,その前後には必ず3度その本を押しいたゞいてから,講義を始め,又終つたという話を読んだことがある.これなどは,総じて書物というものの非常に少なかつた時代に,貴重品のように取扱つた形骸の,そのまま伝えられたものであろうし,また,その中に尊い聖賢の教えが伝えてあるからそれに敬意を表するという,やや封建道徳の臭いがしないでもない.
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