医學の話題
妊娠出産と迷信
石垣 純二
pp.52-53
発行日 1952年5月1日
Published Date 1952/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200109
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妊娠出産にちなむ迷信は數かぎりもなくある。われわれが,よく耳にするものをあげてみても,妊娠中に火事をみると赤あざの子が産れる,兎の肉をたべるとみつ口の子が生れる。出産後に四つ足の肉をたべると血が荒れる,左腹は男,右腹は女などという胎兒の性別鑑定法もある。戌の日に腹帶をすると安産だとか,水天宮さまのお札は安産のまじないになるとか,滿潮時に出産が多いとか,さまざまの迷信を數えあげたら,それだけでいうに一册の本になるであろうと思う。
進歩した現代醫學では出産の危險というものは極めて稀になつたし,その僅少な危險でも,十分な豫防的措置を講じておけば對策はあるわけで,大部分の妊産婦の被害は,無智か怠慢の産物であることは周知のとおりだ。ところが,從來は妊娠出産ということは女性にとつては最大の勞作であつたし,お産は片脚を棺桶につづこんで行うものだなどと言われたほど出産時の危險も多かつたわけで,女性が出産に對して抱いた恐怖感は到底現代人には想像もできないほどであろう。その恐怖感が,インチキ宗教家の發生とバツコと相まつて,こうした迷信を續々とつくり出したものと考えられる。
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