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はじめに—これからの時代の訪問リハビリテーションはどうあるべきか
訪問リハビリテーションは,2000年の介護保険制度開始と同時に,「通院が困難な者」に対して「居宅要介護者について,その者の居宅において,その心身の機能の維持回復を図り,日常生活の自立を助けるために行われる理学療法,作業療法,その他必要なリハビリテーション」1)として主に高齢者に対する訪問リハビリテーションを中心に広がってきた.
高齢者の訪問リハビリテーションは,「自立支援」を基本理念とする介護保険制度に基づきリハビリテーションが提供される.そのため,リハビリテーション専門職は,家族の介助量を軽減し,日常生活動作(activities of daily living:ADL)自立をめざすべく,身体機能の維持・回復に重きが置かれてきた.しかし,2001年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)から発表された国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)の考えが徐々に浸透し,ボトムアップで機能回復を捉えるのではなく,生活機能,環境・個人因子を評価し,活動・参加を支援すべくトップダウンの考え方で対象者の生活を支えるようになった.
2022年に一般社団法人日本訪問リハビリテーション協会(以下,訪問リハビリテーション協会)で行われた訪問リハビリテーションに従事するリハビリテーション専門職に対するアンケート調査では,居宅外でのリハビリテーションの提供に関して97%が「必要がある」と回答し,その理由の7割以上が「公共交通機関利用の練習」,「電動車いす等モビリティー利用の練習」といった移動の練習が目的として挙げられていた.移動の先には何があるのか,友人に会いに行くのか,職場に行くのか,桜の花を見に行きたいのか,その先にはその人が大切にしてきた価値ある活動が待っているのかもしれない.いまや生活課題に向き合っているリハビリテーション専門職は,「在宅において」,「通院困難な者」にのみ囚われて訪問リハビリテーションを提供し続けるのではなく,その先の活動に目を向けて支援している実態が伺えた.
先述した「その人が大切にしてきた価値ある活動」を支援するには,これまで,あるいはこれからのその人らしい生き方が反映されるべきである.内田2)は,「個人が生きる意味や価値を感じられるような幸福感を実感しながら,それを支える社会・集合とバランスを持っていくことは,現在日本における幸福について考えるうえできわめて重要である」としている.つまりは,生活を支援する訪問リハビリテーションでは,機能目標を一番に掲げるのではなく,その人らしい生き方,そして幸せのあり方は何かを考え,支援することが求められる.
訪問リハビリテーションの広がりとともに深化してきた地域包括ケアの考え方によって,高齢者だけでなく0歳の乳児から生涯にわたって地域でいかに支援していくかが問われるようになった.さらには個人の年齢だけを対象とするのではなく,こども家庭庁の創設時に掲げられた子ども政策に示されているように,地域において子どもが生まれる前(妊娠期)からどうかかわっていくか,年齢や制度の壁を克服した継続した包括支援の実現をめざして取り組みがなされる時代になった3).地域包括ケアの対象が多様化すると同時に,訪問リハビリテーションにおける支援のあり方も変化していかなければ,時代に合った制度や支援にはなり得ない.
これからの時代の訪問リハビリテーションはどうあるべきか,これまでの「身体機能回復モデル」から脱却し,その人の生活や活動・参加を支えるため,そしてその先にある「幸せ-Well-being」を支える訪問リハビリテーションを実践していく時代になっていくのではないだろうか.
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