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はじめに
バイタルサインは個人の健康状態を反映し,その変化は疾病の徴候や生命の危機を表すため,正確な測定技術とそれらの値の持つ意味を正しく理解することが重要である.理学療法においても,運動療法を実施する前に対象者の全身状態を把握することは大切である.
血圧測定の方法には,動脈内にカテーテルを挿入して血液の流圧を直接的に測定する方法と,コロトコフ音や拍動波を指標に血圧を測定する間接法がある1).臨床的には対象者への負担が少なく,簡便な測定方法である間接法が広く普及している.この測定方法は,マンシェット圧により皮膚や皮下組織の圧力を高め,それにより動脈壁を圧迫して動脈内圧を推定しているが,血圧測定点で必ずしも「マンシェット圧=動脈内圧」の関係が得られるわけではないとされている2).これは,マンシェット幅や巻く位置,さらには測定部位の周径やマンシェットの劣化等に影響されていると考えられている.また,血圧測定値は上記の外的要因の他にもさまざまな要因により変動することが知られている.これまでの研究では,医師が血圧を測定する際に一過性に血圧が上昇する現象である白衣高血圧に関する研究3-5)やマンシェット幅に関するもの6),測定肢位や測定部位に関する研究7-9)が多い.
理学療法教育における授業カリキュラムのなかで,血圧測定に関する実習は比較的早期に学習する項目であり,本学では2年次に主に学習する.臨床実習(2年次:検査・測定実習,3年次:評価実習,4年次:臨床実習)においても必ず行う評価項目であり,一般的にその理解度は学年が進級するにつれ上昇するものと考えられる.
実際の臨床場面においてバイタルサインを測定する際,体温,脈拍等は比較的容易に測定可能であるが,血圧測定においては,厚手の衣服や袖口の閉じた衣服を着用している場合が多く,測定が困難となる.このように,上腕部を圧迫した状態で血圧を測定したり,厚い衣服の上から血圧を測定してしまうと,測定値に誤差が生じてしまう可能性が高い.しかし,学内・外の実習中や臨床で,厚い衣服の上から血圧を測定する場面や衣服をたくし上げて測る場面を日常的に見かける.このような測定によって生じる誤差の大きさをどの程度測定者が把握しているのかは疑問である.先行研究では,血圧測定値と衣服の関係を研究したものも10,11)存在するが,その衣服の厚さを定量的には評価していない.
そこで本研究では,まず,研究Ⅰとして,理学療法学科学生を対象に,血圧の変動要因のなかでも特に衣服が血圧測定値に及ぼす影響についてアンケート調査を行い,その理解度を学年間で比較した.そのうえで,研究Ⅱとして,若年健常成人を対象に,衣服の厚さが血圧測定値にどのような影響を与えているのかを明らかにするため,衣服の厚さをフェルトにて2mmから10mmまで定量化し,血圧と衣服の厚さとの関係を検証した.
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