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はじめに
脳に何らかの衝撃や損傷が加わると,運動や感覚機能だけでなく,さまざまな精神的機能の低下・喪失が生じる.この後者の部分をわが国のリハビリテーション関係者と作業療法の関係者は高次脳機能障害と呼び慣わしてきた.これはおそらくわが国独特のものである.英語文献でこれに相当する言葉は,神経心理学的障害neuropsychological dysfunction,認知障害cognitive dysfunction,知覚―運動障害perceptual-motor dysfunctionなどである.日本語としても高次神経障害と呼ぶほうがよいのかもしれないが,ここでは与えられた表題通りに,高次脳機能障害と呼ぶことにする.
作業療法関係の文献に高次脳機能障害をテーマとするものが現れるのは1970年前後からである.はじめはごく少数であったが,1980年代の中盤以降には際立って増加した.しかし,高次脳機能障害のリハビリテーションを手がけるようになったのは作業療法の実践家だけではない.言語病理学,神経学,神経心理学,神経行動学,認知心理学,認知科学など多種類の分野の専門家たちもまた,このテーマに関わってきた.神経心理学的リハビリテーション,認知リハビリテーションなどの言葉は,その名が示すごとく心理学の分野で生まれたものである.
どの分野の専門家が手がけるとしても,扱う患者は同一であり,扱う問題も似たりよったりである.作業療法の実践家たちが最初に関心を持ったのは失認,失行などの神経症状であったが,やがて避けられない運命として,注意,記憶,思考など認知心理学が手がけてきたテーマにも関心を払うようになった.職域上の理由から,失語そのものを介入の対象にすることはなかったが,失語を有する患者の作業行動の改善という問題には関わってきた.介入の手だてを考えるのに,神経心理学あるいは認知心理学における知見を参考にすることも多い.
高次脳機能障害のリハビリテーションは非常に学際的な領域である.多くの専門家が関与しており,それぞれの背景が少しずつ異なっている.本稿の目的は,作業療法の実践家が高次脳機能障害に介入する際の理論的基盤を説明することにある.
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