Japanese
English
特集 障害者・高齢者と性の問題
高齢者の性
Sexuality in the Elderly.
荒木 乳根子
1
Chineko Araki
1
1聖徳大学保健センター
1Helthcenter of Seitoku University
pp.869-874
発行日 1995年10月10日
Published Date 1995/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107959
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はじめに
万葉集には,大伴坂上郎女の「黒髪に白髪交じり老いたれどかかる恋にはいまだあはなくに」という歌がある.年老いても恋をし,性の煩悩に翻弄されるのは,何も今に始まったことではない.しかし,人生50年の時代には高齢まで生きて性を享受することは,特別の人の特殊な出来事と見なされていたであろう.特に現在老年期を迎えている人たちは,性についてはタブー視する封建的な伝統的性道徳の下で育ち,老いたら性は枯れると教えられてもきた.ところが,今人生80年の時代を迎えてみると,健康で元気な高齢者たちは,教えと異なる自身の性に気づいて戸惑っているのではないだろうか.こうした現実を受けて,高齢者の性について最近はジャーナリズムも取り上げるようになり,一般書も出始めた.「高齢者にも性愛の希求はあるのだ」という認識が一般のものとなり始めているのが,現在の日本の状況といっていいだろう.
性愛の希求の実現は老年期をいかに充実して生きるかというQOLの問題と密接に結びついている.しかし,高齢者の性に関わる研究はまだまだ少ない.高齢者がその希求をどのように実現していくことができるのか,高齢の男女双方にとって望ましいありようは,ということを考えるとき,高齢男性の性,高齢女性の性についての理解はまだこれからの課題であるといえるだろう.
性に関わる先行研究は主に性行動を中心としているが1,2),老年期の男女関係のあり方を考えるうえでは性行動に限らずもっと広く異性への愛情や関心も含めて,すなわちセクシュアリティという広い概念のもとで調査することが必要だと考えて,この研究を企図した.
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