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この書物の表題からも推察されるように,本書の目的とするところは,関節炎患者についての症状,診断,治療についての単なるガイドブックではなく,諸種の関節疾患患者の総合的,包括的管理についてであり,あるいは医学的な面から,あるいは社会的な面からの考え方や,評価の方法,アプローチの仕方,それらに伴う諸種の制的,問題点とその解決など,ひろい面にわたって筆がすすめられている.端的にいえば,医学的,社会的リハビリテーションについてということになろうが,従来の関節疾患,ことに慢性関節リウマチを中心とした諸種の書物にはみられない特色をもっているといえよう.監修者であり,著者の1人でもある(各章分担執筆)Ehrlich教授は,原著にはTemple医大の医学部教授およびリハビリテーション医学助教授となっているが,後者に関しても最近教授になられたことが私信で伝えられた.
さて,本書は11章に分かれ,付録が2つある.第1章では問題の概観について述べてあり,disabilityをどう捉えるか,どういう疾患を含めるか,消長をくり返す関節炎に対する時間的因子,身障者の頻度などについての問題にlength,bredth,depth,timeの4つのディメンションをもってアプローチする必要性を説いている.第2章は,RA,痛風,骨関節炎,強直性脊椎炎の保存的療法,関節内ステロイド注入について述べてあるが,とくに目新しいものはない,抗リウマチ剤に関する各国のtrade nameのリストに日本に関するものが乏しいのは情報提供に関するわれわれの側に問題があることを物語っているといえよう.第3章は安静と副子について教授が執筆し,手の機能的副子作成の工程を写真入りで詳細に紹介し,膝スプリント,頸カラー,靴などについても触れている.第4章は各関節に対する外科的アプローチで,人工関節の導入も足関節を除いて紹介されている.この章にはどういうわけか参考文献が載っていない.第5章は慢性関節炎患者管理における心理社会的問題で,従来関節炎患者の医学的リハビリテーションとの関連性があまり留意されなかったことをふまえて,患者自身の生活パターンを十分に認識すべきであり,いわゆるmotivationの重要性,保健婦の役割,職業指導,社会保障,関節炎に関する協会の活動,その他のサービスについて述べてある.第6章脊椎の関節炎では,患者の評価方法,治療の一般原則から,脊惟各部の疾患,あるいは系統的疾患について触れ,さらにリハビリ上の阻害因子(建築,交通なども含めて)とその対策にまで言及している.第7章では,機能的および社会的欠落について,疾患のみならず時間的経過に伴って起こる問題も考慮に入れて,機能的評価,社会的評価の方法を紹介し,機能向上のための補助的手段,評価に際しての患者の心理的,社会的レスポンスの問題,社会的ゴールとそれに伴う医師,ソーシャルワーカーの役割について述べてあり,RAが主な対象となっている.第8章は予後,職場復帰に関するものであるが,これとうらはらに職場におけるリウマチ性疾患についても触れてあり,雇用上のRAの阻害的因子ないしは雇用に関係する個人的因子,職場復帰の時期などに言及している.第9章は性についての問題について述べてあるが,切実な問題でありながら,医師をはじめパラメディカルスタッフも,また患者も性の問題に関して触れたがらなかった面を真剣に反省しなければならず,また夫婦間で一方が関節炎罹患の場合,問題は双方に存在するのであり,社会的にも決して等閑視すべきでないことを教授は強調しているが,従来の書物にはみられないユニークな論述である.第10章も教授自身が執筆しているが,患者紹介のための必要知識として,リウマチ専門医,リウマチセンター,理学療法ついて述べてあり,リウマチ治療のための体系はいかにあるべきかの示唆に富んでおり,わが国でのこの方面の立ち遅れを痛感させられる.最後の章は科学的な患者管理の方法論が展開されている.付録のAはADLを主とした機能評価が詳細に説明されている.付録Bの中で各国のリウマチ協会として,欧米のリウマチ協会の名しか載っていないのは遺憾である.本書の邦訳版は佐々木智也教授とつたない私の監訳で明春発行の予定である.
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