Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
ペーシングボードは簡単な装置で,いくつかの色のついたスロットがそれぞれ縁で区分されている補装具の一種である.発話時に,モーラ,単語,文節などの単位で各スロットを指でポインティングしながら発話することで,発話速度を強制的に低下させ,発話の明瞭度を上昇させることを目的とする.Helm1)が,重度のパーキンソン病に伴う運動低下性構音障害例に対する有用性を報告して以来,欧米では有効な発話速度の調節法の一種としてNetsellら2),Yorkstonら3,4),Duffy5)により推奨され,普及してきた.国内でも,ペーシングボードについて,西尾6)は,日本語を母国語とする運動低下性構音障害例に対して有効であることを報告している.
しかし他方で,構音障害では言語訓練室のなかにおける,いわば「できる発話」と,日常生活の場における「している発話」との関係との間にしばしば発話明瞭度の差が生じる傾向があり,とくに発話速度の調節訓練ではこのような乖離が顕著にみられることが指摘されている7).このような乖離を埋めるために有用な般化訓練の開発が,言語治療担当者に求められている課題であると思われる.
今回われわれは,重度の運動低下性構音障害1症例に対してペーシングボードの活用を試みたところ,言語訓練室内では顕著に発話明瞭度の上昇がみられたが,日常生活の場においては変化が乏しく,「できる発話」と「している発話」との間に著しい発話明瞭度の乖離を経験した.そこで携帯型のペーシングボードを考案し,日常生活で携行して速度調節を実用し続けることを試みたところ,日常生活の場においても発話明瞭度が良好な状態で安定し,すなわち般化がなされたので,その臨床経過について考察を加えて報告する.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.