巻頭言
しなやかに 新・旧・和・洋・折衷
横山 絵里子
1
1秋田県立リハビリテーション・精神医療センター
pp.307
発行日 2005年4月10日
Published Date 2005/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100073
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ときおり,大寄せ茶会の手伝いに伺うことがある.数百人の客人に菓子や茶を運び,裏方の仕事も目が回る忙しさながら,和の非日常は実に心地よい.そして,いつも感じ入るのは,先生や諸先輩の立ち居振る舞いの見事さである.ことに,椅子に座り込む若者を尻目に,軽やかに立ち回られる年配の方々のお姿は驚嘆に値する.円背とは無縁の姿勢,無駄のない足運びと優雅な起居動作に加え,実にタフなのである.さりげなく「お稽古で慣れておりますから」と仰しゃるが,正座からの起立などは強靱な足腰がなければ転倒を免れない.この運動能力は長年の和の生活に裏打ちされたものである.
明治初頭に来日した欧米人は,この時代の日本人の驚異的な体力や持久力について記述しており,決して豊かではない和の食生活や生活様式が要因かとも推察している.現在,日本人の平均寿命は世界でもトップクラスだが,若年層の体力の低下も懸念されている.社会全体の動きとして,バリアフリーな生活環境の整備とともに,健康寿命を延長するために,介護予防の視点からの高齢者への運動訓練などを中心としたリハビリテーションも重視されている.リハビリテーションの思想,理論は他の医学分野から遅れて欧米から導入された.リハビリテーションの臨床においては,病院では洋式の生活を中心に訓練が進められ,古い和式の生活はほとんど顧みられずにきた.和式の生活に慣れ親しんだ患者さんに,畳と布団で暮らしたいと望まれても,洋式偏重の指導を行ってきたわれわれは戸惑ってしまうのが現実である.
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