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はじめに
社会経済的な環境と人々の生活の両面について戦後の歴史を遡ると1),わが国の資本主義政策は国家主導の調整型市場経済から規制緩和の波などを受けつつ,自由主義型市場経済へと漸次変遷して今日に至っている.そのなかで当初は長期ないし終身雇用が多数であったところ,資本や労働力が国境を超えて自由に移動するグローバリゼーションの進展とともに終身雇用などが廃れていった.同時に,転職,女性の雇用,非正規雇用の増加など労働の流動化,柔軟化が進み,人口の都市への流入も顕著となった.その結果,人々の生活面では共働きの増加,離婚の増加があり,生涯独身の人々も増加していった.未婚の不安定就労者が高齢の親と同居する世帯の増加も顕著となった2).以上の次第により家族について,その「形成と解消が任意となった」1)とも言われる事態になって,今や独居老人,老々介護という課題に直面している.極端な個人化は社会の連帯という面も疲弊するところと懸念される.
かかる高齢社会における地震や風水害による犠牲者,つまり死亡ないし行方不明者全体に占める高齢者割合は,漸次上昇する高齢化率を遥かに凌駕して上昇している(図1)3〜6).2018年7月の西日本豪雨での岡山県倉敷市真備地区における犠牲者46人はみな高齢者であり,そのうち42人は避難行動要支援者であった7).つまり,今やhealthcare business continuity plan(BCP)は高齢者にこそ焦点を当てるべきことが理解できる.
そこで本稿では,医療機関のBCPについて,例えば病院でそのための委員会を立ち上げ,職員の参集やライフラインのいかんを論ずるなどの一般論のみではなく,地域社会との関連性に焦点を当てて医療機関,特に病院におけるBCPの考え方について論考する.
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