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はじめに
理学療法士が臨床で行う姿勢・動作分析は,評価のみならず治療の一手段として臨床推論過程に位置づけられる.臨床場面における理学療法では,姿勢や動作を観察しながらの分析や統合解釈が同時に進められることが重要で,姿勢・動作の障害やADLの活動制限からその機能的障害を考察して治療過程に入るトップ・ダウン方式で行われることがほとんどである.
理学療法士の臨床推論について内山1)は,「臨床推論とは,対象者の訴えや症状から病態を推測し,仮説に基づき適切な検査法を選択して対象者に最も適した介入を決定していく一連の心理・認知的な過程を指す.この過程は,気づきとともに経験や知識に基づく論理的思考による鑑別と選択の連続で,仮説を検証する工程を繰り返している」と述べている.理学療法において,この「対象者に最も適した介入」を進めるうえでハンズオンとハンズオフスキルを適切に組み合わせていく治療過程は必要不可欠である.
臨床推論において重要となる分析結果に基づく解釈と意思決定は,時に暗黙知の領域に入り,経験則的な判断に偏る傾向もあり,根拠に基づく医療(evidence based medicine:EBM)の提供に課題を残しているとの見方もある.また,臨床推論能力は,熟練者と初心者との能力差が顕著に問題となることが多く,適切な実践には多くの時間を要する.臨床推論を進めるうえでハンズオンスキルとともに(時にそれ以上に)能力の差が大きく表れるのは,対象者とのコミュニケーション能力を含めたハンズオフスキルであると思われる.ハンズオフスキルは,知識や技能の成熟と無関係ではなく,ハンズオンスキルのベースとして求められる能力である.優れた治療者は理学療法を進めるうえで,どのようにハンズオンとハンズオフを組み合わせているのであろうか,またハンズオンからハンズオフに切り替えるタイミングはどのような背景をもとに成立するのであろうか.本稿では,ハンズオンスキルからハンズオフスキルへ至る過程の取得とその向上に必要と思われる条件を述べるとともに,現場における効率的な現任教育への流れについても提案してみたい.
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