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はじめに
産業保健(Occupational Health)は,勤労者の心身の健康状態,および労働生産性の維持・向上のための対策を行う領域である.勤労者の健康上の問題は,個人の生活の質や自尊心の喪失を引き起こすだけではなく,欠勤数の増大,作業効率の低下を含めた労働生産性の低下,産業および医療にかかわる費用の増加などを通して,社会全体の経済的損失を引き起こす.一般的には,産業医,衛生管理者,保健師などが産業保健を担う主たる専門職とされ,この領域におけるわが国の理学療法士の活動はわずかである.しかし,諸外国では理学療法士がこの分野に積極的にかかわり,その成果も多方面から検証されている1,2).
産業分野の健康問題は筋骨格系障害をはじめとする作業関連性疾患,生活習慣病,メンタルヘルス不調など多岐にわたり,多くの発症誘因が相互に複雑に影響し合って構成される3)ため,勤労者におけるトータルヘルスケアへの学際的な取り組みが期待されている.また,労働安全衛生法において,事業者には一般健康診断の実施が義務づけられている(第66条第1項)ほか,有害な業務に従事する勤労者に対し,特殊健康診断(第66条第2項および第3項)が義務づけられている.このうち,上肢作業従事者に対しては上肢健診が実施されるなど,業務内容の多様性・個別性に配慮したヘルスプロモーションが重要視されている.
また,高年齢者雇用安定法の改正(2013年4月施行)により,継続を希望する従業員の雇用年齢の引き上げが義務づけられたことで勤労者の高年齢化が進み,健康増進と労働生産性維持に向けた産業保健領域の役割は今後ますます重要になるものと予想される.
本稿では,企業で働く勤労者の健康障害として,作業関連性筋骨格系障害(Work Related Musculoskeletal Disorders:WMSD),抑うつを中心としたメンタルヘルス不調に焦点を当て,理学療法アプローチの可能性について述べたうえで,労働生産性の低下を示す指標として注目を集めている,Presenteeismの概念を紹介する.
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