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“静”から“動”へ
これまでの10年足らずの間に飛躍的な変化を遂げた理学療法領域として,この救命救急領域,特に集中治療室(intensive care unit:ICU)における人工呼吸患者の理学療法がその一つに挙げられる.
従来,ICUに入室する重症疾患や超急性期の人工呼吸管理患者は,鎮静薬の使用による深い鎮静と安静臥床の状態で,原疾患や合併症に対する治療を行うことが主流であった.そのなかで理学療法は,過負荷により原疾患の回復遅延や体力の消耗を助長するといった懸念から,極低負荷の関節トレーニングや体位療法を主とした短時間の呼吸に対する介入にとどまるか,病状が十分に安定した後やICU退室後の時期からの実施であった.しかしながら,このような過度の鎮静や安静臥床の状態では,不隠やせん妄の誘発,重症疾患や多臓器不全症候群に関連したICU-acquired weakness(ICU-AW)といわれる重篤な呼吸筋・骨格筋筋力低下,人工呼吸器関連肺炎や下側肺障害等の呼吸器合併症の併発,そして深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の発症といった予後を悪化させる医原性合併症を併発することが明確となった1,2).このような予後に影響する合併症の併発や鎮静薬・鎮痛薬の発展と普及,自発呼吸に追従しやすい人工呼吸器をはじめとする周辺機器の進歩,優れた臨床研究を主軸とした治療ガイドラインの樹立などにより,患者を眠らせ,寝かせて行う治療はここ数年で終焉を迎えた.そして,ICU入室に至った原疾患や病状を安定させながら,可能な限り早期に患者を鎮静状態から覚醒させ,積極的に身体を起こす治療・患者管理へ,“静”から“動”へと大きく変遷した.このような流れに連動し,早期からの理学療法やリハビリテーションの必要性が提唱され,世界的に着目されるようになった.
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