とびら
中年期の危機
林 和子
1
1横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション部
pp.491
発行日 2015年6月15日
Published Date 2015/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551200224
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中年のため息とご容赦いただきたい.
約10年前,“生涯学習”をテーマにコラム原稿の依頼を頂戴した.40少し手前のころである.子供は乳児から幼児,学童となり,育児の物理的忙殺から少々解放され始めたころだった.依頼を機に生涯発達関連の書籍を何冊か読み,「人格形成は3歳,5歳までの母子関係が大事」などという文章に触れ,わが手抜き育児に既に手遅れかとうなだれる一方,ユングの「人生の正午」について読んだとき,まさに今だ! と心が躍った.「人生の正午」とは,太陽は東から昇り(午前=人生の前半)40歳前後でちょうど頭上を通過し(正午),西へと傾き沈んでいく(午後=人生の後半).正午を境に人間の影がそれまでとは逆方向に映し出される,つまり人生前半の理想や価値観が人生後半には逆転するという理論である.当時どんな影になっていくのかなどと呑気に思ったのだが,気がつけば背後から西日を受け,それまで見えていなかった自分の影を見ることになる.しかもその影は日の傾きとともにどんどん長く細くなっていく.中年=安定のはずが,何かおかしいぞという漠然とした不安.そして「中年期の危機」はほどなく訪れた.
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