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はじめに
油圧機構を足継手に用いたAFO(以下,油圧AFO)は油圧緩衝器により立脚初期の足関節底屈を制動し,推進力を維持しながら踵接地後の衝撃を吸収するという正常歩行パターンを事現できる可能性をもつAFOである.油圧AFOはDACS AFO(背屈補助付短下肢装具)のバネ機構を油圧機構に改良したものであるが,開発コンセプトについてはDACS AFO同様である.油圧AFOの機能を明らかにするために正常歩行における立脚初期の機能,従来のAFOの課題,油圧AFOの臨床への可能性について以下に示す.
1.正常歩行における立脚初期の機能1,2)
踵接地から足底接地にかけて身体には,①衝撃の吸収,②安定した体重負荷,③推進力の保存という三つの機能が要求される.これらを身体各部位の位置関係で示したのが図1である.足関節には床反力により底屈方向へのモーメントが働き,これに対し足関節背屈筋群が遠心性に収縮し足関節底屈を制動する.この制動により下腿が踵を支点に前方に傾き(heel rocker)推進力を保存し,同時に足関節が緩やかに底屈しながら足底が静かに床面に接地するという衝撃吸収の役割を果たす.下腿が前方に傾くことは結果的に膝関節を屈曲させることになり,膝関節伸筋群は遠心性に収縮しその屈曲を制動する.つまり衝撃吸収をしながら下腿と大腿を連結し近位部に推進力を伝える.股関節では伸筋が求心性に働き,heel rockerと協調して股関節が伸展することにより身体は踵を支点に倒立振り子のように前方に回転する.正常歩行ではこのようなメカニズムで踵接地時の衝撃を吸収しながら前方への重心移動を行っている.
2.従来のAFOの課題
片麻痺者がAFOを装着した際の歩行について考えてみたい.従来のAFOは表1に示すような異常歩行に対し,つま先離れの改善と立脚の安定を目的に底屈方向の動きを制限している場合が多い,このような場合,踵接地から足底接地にかけてAFOがひとつの剛体となって転がるため足関節での衝撃吸収ができない(図2).そのため踵接地の際に床反力から受ける足関節底屈方向へのモーメントはそのまま下腿を前方に押し出す力となり,膝関節より近位部で踵接地から足底接地にかけての衝撃を受けることとなる.山本ら3)は底屈に対して可橈性の低い固いAFOを用いた場合,膝折れを起こすかもしくは立脚相の間に常に膝関節伸展モーメントを発生し膝折れを防止せねばならず,遊脚相への移行をも阻害すると述べている.われわれの臨床経験の中でも近位部の安定が得られない状態で急激に膝関節だけが前方に押し出され骨盤が後退した不安定なアライメントで立脚中期から後期を迎えてしまう症例や体幹を前傾させてしまう症例,さらに下肢全体を強く伸展させ下腿後面をAFOに押し付けるようにして安定性を得て歩行する症例を目にすることが多い.
このような課題に対し,靴べら型AFOの足関節部のトリミングにより立脚初期に足関節底屈の動きを出すことも可能だが,技術的な難しさや立脚後期に不必要な背屈制動モーメントを生じてしまうという問題がある.
山本ら4)は,AFOは立脚初期に適切な大きさの底屈制動モーメント注)を下肢に与えることが重要であることを明らかにし,DACS AFOを開発した(注:ちなみに底屈制動モーメントは従来背屈補助モーメントと表現されていたが,クレンザック継手のように足関節背屈方向の動きを補助するような誤解を招く表現であること,動きと力の関係をわかりやすく表現することをふまえて底屈制動モーメントとした).DACS AFOは反発力の異なる4種類のばねの交換と初期背屈角度の設定により底屈制動モーメントを調節することができ,立脚初期に足関節背屈筋群の制動を受けながら足関節が底屈するという正常歩行パターンに近づけることが可能である.使用者の装着感・歩きやすさといった点で良好な結果が得られているものの,外観・階段の降り難さや処方する側の種々の事情で普及していないのが現状である.
3.油圧AFOの利点
今回開発中の油圧AFOは,装着したままの状態でも底屈制動モーメントの大きさを無段階に調節することが可能である.したがって歩行練習を行う中で,歩容を評価しながらその場で底屈制動モーメントを個々の症例に適した大きさに調整することができる.また油圧機構が小さいためDACS AFOに比べ外観にすぐれ階段昇降時に邪魔にならないというように,臨床的に使用しやすい利点を有している.
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