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私は,理学療法を実践する際のリスク管理について,同施設内の理学療法士が編集と執筆を手がけたマニュアル書をあまりみたことがない.本書は,聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部に所属する理学療法士が,長年にわたり臨床の現場で培ってきた知識と技術を惜しげもなく公開したリスク管理マニュアルである.一見,同施設内の理学療法士がまとめたリスク管理内容と思うと,リスクを層別する基準とその管理方法に対する見解(考え方)が偏っていると捉えがちである.しかし,医療システムや治療に対する考え方が異なる,さらには関連する医療チームの構成が異なる状況下で理学療法を展開してきた理学療法士がある特定の疾患に対するリスク管理をまとめた内容を寄せ集めて編集したマニュアルは,見解が異なった意見の集まりだけに,かえって混乱を招く恐れがある.例えば,急性期や慢性期といった病期区分自体,定義もなく未だ統一されていない.また,理学療法の開始基準や中止基準は同じ疾患でも施設間で大きく異なっている.つまり,本書は理学療法を実践するためのリスク管理法を同じ理念ならびに統一した知識と技術をもった理学療法士の視点からまとめたものであり,本マニュアル書の大きな特徴の一つとなっている.
二つ目の本書の特徴は,疾患(群)のリスク管理法を提示する際,その疾患自体のリスクだけでなく,多臓器ならびに他疾患との関連性を考慮してまとめた点である.リスク管理に関する講習会等でよく経験することだが,聴講者から必ずと言ってよいほど,「他の疾患を合併したときにはどう展開すべきか」という質問が投げかけられる.これは,現場の理学療法士が担当する対象者の多くが多疾患有病者もしくはそのリスクを抱えているということに他ならない.急性期の病院施設だけでなく,回復期および維持期を担う場合であっても,対象者の疾患管理を多臓器および他疾患との関連で捉えることは今や必須となっている.
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