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はじめに
老化や高齢者の問題に関する研究は,心身の障害や貧困などの困難に直面している高齢者の研究から始められ,その後徐々に対象を拡大して今日に至っている.障害や生活困難をかかえる高齢者が最初に取り上げられたのは,研究の動機がそれらの高齢者の支援や問題解決にあったからであり,また「すべての高齢者は心身の障害や生活困難をかかえている」という今日からみれば誤った前提に立っていたからでもある.しかし,研究の進展に伴って,心身の障害や生活困難が加齢の不可避的な帰結ではないことが知られるようになり,問題の発生を含む加齢のプロセスを観察することの重要性が理解されるようになった.こうして,一般の地域高齢者(そのほとんどは現時点では問題に直面していないが,問題に直面する可能性をもってはいる)を対象とする研究が行われるようになったのである.
自立した生活を営む能力(生活機能:functional capacity)についての研究も,まったく同じ経過をたどった.すなわち,最初に入院患者や施設入所者,次いで何らかの原因により生活機能の低下した地域高齢者,そして一般の地域高齢者へと研究の対象が拡げられてきた.
入院・入所者や障害をもった高齢者が対象である時には,その人々がもつ基本的な日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力がもっぱら関心の的であり,また差しあたりそれで十分であった.しかし,研究対象が一般の地域高齢者へと拡大した時,ADLのみでは不十分なことが明らかになった.それは,第一に地域高齢者の大多数がADLの障害をもっていないからであり,第二に地域で自立した生活を維持していくためにはADLだけでは不十分だからである.そこで,社会環境に適応して,地域で自立した生活を営むために必要な生活機能である手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living:以下,IADL)能力があわせて検討されるようになった.
本稿においては,ADLとIADL,そしてしばしば総合的なADLの指標とされる移動能力(mobility)を取り上げ,日本の地域高齢者における障害の頻度と経年変化,早期死亡との関連について概観する.
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