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はじめに
日本理学療法士協会(以下,本会)の会長に就任して早くも1年半が経ち,この期間に多くの都道府県理学療法士会の役員の方々と話をする機会を得た.その中で,30歳代の会員の研修会などへの参加率が低いこと,新人研修システムの運用に苦慮していること,本会の研修・教育システムが理学療法士供給数や体制にマッチしていないことなどの意見を多くいただいた.また,養成校の学生から届いたメールには,就職状況の厳しさや,賃金水準に対する不満,理学療法士としての未来に不安を感じていることが綴られていた.そして,ある医師から「5年ほど前までの理学療法士は,世界に通用する誇らしい専門職であった.しかし,この数年の状況は目を覆いたくなるようなことがしばしばみられる」との指摘を受けている.近年,このような意見は医師からだけでなく,他の関連職種の方々からも指摘されている.
このような状況に至った背景には,教育に見合った人材(教員など)やシステム(臨床実習など)の未整備,そして18歳人口の推移や労働市況の変化とは異なるスピードで養成数が急増したことが挙げられる.その上に本会の卒後研修体制の質的・量的改編が遅れていることも大きく影響していると考えている.つまり,教育の責任が養成校と本会に問われているのである.
「職能」とは「社会や組織の中でその職業が受け持つ一定の役割,職業による異なった能力」を意味している.「職能団体」とは「職業によって異なった能力を持った2人以上の集団」であり,「職能活動」とは「職業によって異なった能力を際立たせるための活動」である.したがって,理学療法士のみによって構成される本会は組織として成立した時点で職能団体なのである.私は,この職能団体の目的である「職業によって異なった能力を際立たせていく手段」が学術活動であると認識している.本会にとって一番大切な職能活動は,教育・研究・研修の活性化であり,その結果として理学療法士の諸活動に対して利用者からの満足度と信頼度を高め,医療・保健・福祉の分野に確固たる「理学療法士による理学療法」の地位を築くことである.本稿のテーマである「急増する新人理学療法士に対する理学療法士協会の取り組み」は社団法人としての課題ではなく,職能団体としての課題であり,その方法論である広い意味での学術活動の課題と捉える姿勢が大切である.職能活動か学術活動かという,これまで本会がとってきた二者択一的な関係ではなく,新しい関係を再構築する必要を感じる.
このような職能団体,学術団体,そして公益団体という3つの要素を織り交ぜながら本会の運営を行わなければならない.本稿では,そのような視点から,新人理学療法士の急増による問題点とその組織的対処について記述する.なお,一部の記述には,本会としてのコンセンサスに至っていない個人的な考え方があることをご承知おき願いたい.
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