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高校生の頃,仏教では「生・老・病・死」を四苦といい,人生の苦しみを表現していると習った記憶があります.また「四苦八苦」という言葉については,「今度担当した患者さんへの対応に四苦八苦している…」というような感じで使っていました.最近ある宗教関係の解説本を読んで,本来の意味や語源を知らずに使っていたということに気づきました.
四苦八苦は「生老病死」の四苦に,「愛別離苦(あいべつりく)」「怨憎会苦(おんぞうえく)」「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」「求不得苦(ぐふとくく)」という四つの苦しみが加わり,計八苦を指していると知りました.簡単に説明すると「愛別離苦」とは,いつかは必ず愛する者と別れなければいけないという苦しみ.「怨憎会苦」とは,絶対会いたくない嫌な人間,自分を殺そうとねらう敵のような人間に会う苦しみ.「五蘊盛苦」とは,人間に感覚があることによって起きる苦しみ.「求不得苦」とは,望みがかなえられないことによって感じる苦しみ,だそうです.前者2つは愛憎に関する内容だと字面からも想像しやすかったのですが,3番目の「五蘊盛苦」は見慣れない漢字のため,少しとまどいました.人間には肉体があり,感覚があり,想像する頭があるがゆえに苦もまた存在するというのです.おいしいものを食べる喜びがあるからこそ,食べられない時には苦しみを感じます.歩ける喜びと歩けない苦しみは表裏一体の関係にあります.日頃,病院でお会いする方々が感じている苦しみのことと考えれば,非常に理解しやすいことでした.4番目の「求不得苦」も,身近な存在ですね.いつかは完璧に回復できるのではないかという希望を持つ方々に対し,それは難しいことですよと話してきました.できうるかぎりの練習を続け,その過程を経た上で,折り合いをつけて生きていくことになるのではないでしょうかと.そうだなと納得される方と,なぜこんな病気になってしまったのか?と嘆く方.人によっては延々と繰り返されるループであり,様々な苦しみに取り巻かれ,まさに四苦八苦そのものであると言えます.
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