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注意は様々な認知機能の基盤である1).ある特定の認知機能が適切に機能するためには,注意の適切かつ効率的な動員が必要である.つまり,認知のターゲットの注意による選択が要求される.また注意機能は,広く社会的生活を営むための様々な行動に介在し,これを統合する役割も持つ.すなわち,注意による行動の制御機構である.したがって,脳損傷後の注意の障害は,多くの認知行動障害を引き起こす.しかし,全般性注意の障害と個々の神経心理学的障害(失語,失行,失認,健忘など)との関係は非常に複雑であり,注意障害が特定の神経心理学的障害の本質である場合から,単にそれに重畳している場合まで様々である.例えば,学習障害における注意の障害の果たす役割は極めて重要であることはよく知られている.すなわち,記憶障害は,注意機能に大きな負荷をかける活動で顕在化することが多い.また,特定の認知機能が障害されていることが明白な場合でも,その背景にしばしば注意の障害が潜んでいることがあり,これが改善されることで認知行動障害の回復が見られることもある.さらに日常生活上の問題や社会的な行動障害の改善を目指したリハビリテーションのプログラムには,注意障害の視点からのアプローチが必要となることも多い.なお,注意は,全般性注意(generalized attention)と方向性注意(directed attention)に分けられる.前者の障害が全般性注意障害であり,後者の障害は半側空間無視(unilateral neglect)と言われ,外界や身体に対する注意の方向性に関する障害である.この両者には,その発現メカニズムを含めて多くの関連があるが,本稿では全般性注意の側面について述べる.
注意とは
注意は,高次脳機能の土台のようなものであり,注意が障害されると大なり小なりすべての認知機能が障害される.注意は,情報処理における第一段階であり,すべての精神神経活動の基盤であり,注意の障害は精神活動のすべての段階に影響することは明らかである.一方,高次の認知機能(特に言語)は注意に対して影響を与えており,高次の脳機能と注意は相互関係をもっている.高次脳機能障害をみた場合,どこまでが注意の障害であり,どこからがそうでないのかの明確な境界線を引くことが難しいことも多い.注意とは,「意識的,意図的にひとつの対象や,複雑な体験のひとつのコンポーネントに心的エネルギーを集中し,他の情動的ないし思考的内容を排除すること(Campbell, 1981)」,「心的活動をひとつないしいくつかの対象に能動的に向けること,ないしは心的活動がひとつないしいくつかの対象により受動的にひきつけられること(Peters, 1984)」,「必要な情報の選択と,正確で組織立った行為のプログラムの保証,およびその行為の経過に対して恒常的制御を維持することで,意識的活動の選択的性格を保証するもの(Luria, 1973, 1975)」などと定義されてきた2).
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