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はじめに
ヒトの身体諸機能が高齢化とともに低下することは,生物学的に避けがたい現象とされている.しかし,その進行状況に個人差があることも確かな事実である.影響因子としては種々想定されるが,本稿では高齢者の骨格筋について,その機能と形態の変化,および運動療法による筋機能改善効果と限界について述べる.なお,英語文献で「aging(エイジング)」と表現される単語の日本語訳には,「加齢」と「老化」がある.「加齢」は時間の経過,つまり年齢を増すことを意味し,出生から始まる.「老化」は加齢に伴う成熟期以降の心身機能低下を意味する1)と解釈し,本稿で扱う内容では「老化」が適切と考え,以降で使用する.
近年,米国で高齢者の筋萎縮を説明する「sarcopenia(サルコペニア)」という概念が提唱された2).語源はギリシア語のsarx(flesh;肉)とpenia(loss;損失)であり,高齢者における筋量の減少と筋力低下を意味する3).廃用性(disuse)筋萎縮は,サルコペニアの一因と考えられるが,廃用性では可逆的要素を含むことから,理学療法の臨床場面では,両者を区別した対応が必要とされる.ところが,老化による身体機能低下が活動量減少をもたらし,結果的に廃用性筋萎縮を惹起し,さらに老化スピードを増すという悪循環も考えられ,厳密な因果関係の判別は困難である.また,老化による身体活動レベルの減少は定説ではあるが,ヒトでは個人差も大きく直接的エビデンスがなく,客観的測定による確認が必要とされている4).老化による骨格筋機能の低下は避けがたい現象であるが,そのスピードは抑制できる可能性が示唆されている1).また,廃用性筋萎縮の部分を少なくすることの効用も推測される(図1).私見であるが,正常筋機能を向上する方法(スポーツ目的など)と,老化や廃用過程進行中の筋機能改善方法は別に考える必要がある.つまり筋の状態が異なれば応答メカニズムも違い,当然介入方法も工夫しなければならない.いずれにせよ,老化による骨格筋の変化およびそのメカニズムを理解することは,理学療法による介入を考慮する上で重要であると考えられる.
老化に関する研究は進んでいるが,固体差や寿命の関係からモデル動物を扱った研究が多い.ヒトに関する研究では,個人差が大きいことや人種差が考えられ,しかも骨格筋の一部しか扱っていない現実がある.特に,ヒトの組織学的分析で使われる生検法では,限られた骨格筋の情報しか得られない.以上の事情を考慮し,特定の疾患を想定せずなるべくヒトに関するデータを示すよう努めたが,一部ラットなどの哺乳類のデータを使用したことをお許しいただきたい.
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