特集 創傷治癒と理学療法
創傷治癒過程に基づいた褥瘡の創傷管理とその再建手術
稲川 喜一
1
,
森口 隆彦
1
,
山本 康弘
1
,
岡 博昭
1
Inagawa Kiichi
1
1川崎医科大学形成外科学教室
pp.353-361
発行日 2006年5月1日
Published Date 2006/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100298
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はじめに
社会の高齢化が進行し,脳血管障害や悪性腫瘍などの様々な基礎疾患によって,寝たきりの状態を余儀なくされている患者が増加している.このような患者では,長期の臥床によって皮膚や軟部組織に持続的な圧力が加わり,また多くの局所的,あるいは全身的な因子による組織耐久性の低下とも相俟って,組織の虚血変化を来し,褥瘡が発生する.褥瘡の有病率に関する報告によれば,本邦では入院患者より在宅療養患者に褥瘡が多く認められ,その重症度も高いとされている.したがって今後の在宅医療の促進により,褥瘡患者の増加が懸念されている.
近年,褥瘡に対する保存的治療法は,新しい創傷被覆材の開発や様々な体圧分散寝具の普及に伴って飛躍的な進歩を遂げており,保存的治療のみによって軽快する褥瘡も多い.しかし筋組織を越えて骨にまで達するような深い皮下ポケットを有する症例で,保存的治療が奏効しない病変に対しては,外科的治療を考慮する必要がある.またMRSA感染を伴った褥瘡を有する患者では,介護施設への入所が難しいことがある。そのような場合には,褥瘡の早期治癒のために外科的治療が行われる.外科的治療の目的は,創を単に閉鎖することではなく,荷重に耐えて褥瘡が再発しにくい状態を得ることである.手術によって褥瘡を短期間に治癒させることは,患者の全身状態を改善させ,ADLを向上させて早期の社会復帰を可能にする.しかし手術はあくまでも対症療法でしかなく,常に再発の危険があるということを念頭に置いておかなければならない.したがって外科的治療を検討する際には再発を来して再び手術が必要となった場合の対応,すなわち再発時の再建法までを考える必要がある.
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