トピックス
ヒ素中毒
佐野 憲一
1
,
村上 正孝
2
1(財)日立メディカルセンター特殊検査室
2筑波大学社会医学系
pp.1051-1053
発行日 1999年7月1日
Published Date 1999/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543903941
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はじめに
ヒ素(As)は古くから知られた化学物質で,自然界に広く存在し,従来より木材防腐剤,農薬殺虫剤などに利用されてきたが,一方では,その毒性によって,世界各地で飲料水汚染による中毒事件や非鉄金属精錬所など,産業現場での中毒事故の発生が繰り返されてきた.わが国でもヒ素中毒の報告は多く,1955年に食品中毒として発生した「ヒ素ミルク事件」や1973年,宮崎県土呂久地区のヒ素鉱山における「ヒ素中毒公害認定」はヒ素の毒性の怖さを教えるものであった.また,不幸な事件として,1998年7月,和歌山市で起こった亜ヒ酸混入による「ヒ素入りカレー事件」は記憶に新しいところである.
ヒ素は周期表でVb族に属し,原子番号33,分子量74.92の半金属であって,自然界では地殻中に金属ヒ素単体,鶏冠石(As4S4),雄黄(As2S3),硫ヒ鉄鉱(FeAsS)などとして存在する1).また,食品中にも存在し,特に魚介類や海藻中には高濃度のヒ素が検出されている.近年はガリウムヒ素(GaAs)やインジウムヒ素(InAs)など,化合物半導体の原材料として電子産業界での需要が増加している.ヒ素は微量元素として生長促進作用に関与する必須金属であるとされているが,ヒ素の毒性評価も生体内でのヒ素の存在形態や食品中での化学構造が明らかになるにつれて,ヒ素の化学形態によってその毒性に著しい違いがあることが明らかになってきた(代表的なヒ素化合物を表1に示す).
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