けんさアラカルト
胃および腸生検標本の取り違い
町並 陸生
1
1東京大学医学部病理学教室
pp.800
発行日 1994年9月1日
Published Date 1994/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543902117
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最近の内視鏡生検症例数の増加は著しい.1回の生検で10個以上の組織片を採ることもそうまれではない.病理組織診断用のプレパラートが完成するまでには種々の過程があり,そのどこかで組織片が入れ替わると誤診のもとになる.癌患者の組織片が非癌患者の組織片と入れ替わった場合には,患者は大きな不利益を受ける.特に癌患者が癌でないと診断された場合の不利益は重大である.内視鏡室での組織片採取時,病理部への運搬時,病理部での標本作製時のそれぞれの時点で標本の取り違いは起こりうる.病理医が顕微鏡で生検標本を観察し,病理組織学的診断を行う際に標本の取り違いに気づくことがある.病理診断依頼書に記載されている事柄と標本の所見とが合わないことに気づき,その症例の前後に取り違えた相手がないか調べると,たいていの場合はその相手が見つかり,一件落着することになる.相手が見つからない場合は大変困ったことになる.また,病理診断依頼書の記載事項と病理組織所見の間に矛盾がなくても標本の取り違いがあることも極めてまれにはありうると思われる.
病理標本作製に至る一連の過程は人間が行うことであるから,誤りが起こることは当然ありうることであるが,そのような誤りを最小限にくい止めるよう努力することが必要である.それではどのようにすれば標本の取り違いをできるだけ少なくすることができるのであろうか.
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