けんさアラカルト
人間ドックにおける臨床検査の役割
小池 繁夫
1,2
1東京都教職員互助会
2三楽病院
pp.324
発行日 1990年4月1日
Published Date 1990/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543900088
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ある日の午後の外来のことである.「ドックの検査で,便の潜血(免疫学的方法)が陽性で再検査を受けたのですが,その結果を聞きにまいりました」と中年の婦人が来診された.カルテを繰ってみると,オルトトルイジン法,グアヤック法,さらに人血のみに反応する免疫学テストのいずれもが陰性で,もちろん消化器系統の疾患もなく痔疾も認められないので,「ご心配はいりません」と答えた.それから陽性に出た理由について可能性を挙げて説明すると,その患者の表情がにわかに明るくなり,「実は家庭医学の本などを読んでみると,どうしても直腸癌のことが頭を離れず,家の中の大整理をして,遺言も作って,今日は入院覚悟でまいりましたが,おかげさまで,すっかり家中の整理ができましてありがとうございました」と丁重にお礼を言われて,瞬間ほろにがい感じとともに,臨床検査結果の意義の重大さをあらためて実感した.
もし,この場合,本当に直腸癌であったとすると,その患者のその後の人生は一変してしまうに違いない.また,かりに,なお免疫学的方法を含めてなんらかの潜血反応が陽性で,しかも現在の医学的技術をもって精査をして異常がないと出た場合には,さらに長くフォローしなければならないし,その場合,患者の心の問題はなんにも解決せずに宙ぶらりんのままで精神衛生上あまり芳しいものとはいえない.人間ドックは不安を作るところではない.
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