増刊号 採血のすべて—手技から採血室の運用まで徹底解説
Ⅳ 採血合併症と予防・対応法
血管迷走神経反応
入江 仁
1
1津軽保健生活協同組合健生病院救急集中治療部
pp.284-289
発行日 2020年3月15日
Published Date 2020/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543207921
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
血管迷走神経反応(VVR)とは
血管迷走神経反応(vasovagal reaction:VVR)はストレス,強い疼痛,排泄,腹部内臓疾患などによる刺激が迷走神経求心枝を介して脳幹血管運動中枢を刺激し,心拍数の低下や血管拡張による血圧低下などをきたす生理的反応とされる.迷走神経運動枝は骨盤内臓器を除く全臓器に分布する.そのため,心拍数や血圧の変化以外にも嘔気,腹痛,発汗など多彩な症状を呈する1).具体的な誘因としては長時間の立位あるいは坐位姿勢,痛み刺激,不眠・疲労・恐怖などの精神的・肉体的ストレス,さらには人混みの中や閉鎖空間などの環境要因も挙げられる2).採血では坐位姿勢,穿刺による痛み刺激,穿刺されることへの恐怖,採血前に不眠や疲労があることなどが誘因となろう.
日本赤十字社はVVRを表13)のように軽症と重症に分類している.徐脈や低血圧が遷延すると,一時的に全脳虚血の状態となるため一過性の意識消失をきたす.この状態を失神と呼ぶ.VVRとして突然失神を呈することもあるが,失神に至ったVVR症例の3分の2は表13)の軽症に示されるような症状が予兆としてみられるとされている4).仮に失神に至っても,臥位をとらせることにより頭部への血流は回復するため,速やかに発症前と同等の意識レベルまで覚醒する.しかし,徐脈などの反応が極めて重度であったり,失神した患者を周囲の人が坐位や立位のまま支えていたりすると,全脳虚血の状態が続くため,痙攣や失禁にまで至ることがある(失神性痙攣:syncopal convulsion).
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.