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Gram染色を基本とした顕微鏡による細菌の形態観察と菌種の推定は毎年出題されている.検査材料別(感染症の病態別)のGram染色所見で推定可能な細菌を整理しておくとよい.特に,喀痰のGram染色像は必須である.すなわち,市中肺炎の重要な起炎菌である肺炎球菌,インフルエンザ菌(2016年 午後74),モラクセラ菌(2013年 午後68)のGram染色像は必ず押さえておきたい.また,院内肺炎では,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,肺炎桿菌,アシネトバクター(2015年 午後73)の染色像が重要である.
感染病巣から得られた検体のGram染色鏡検は,迅速・簡便に起炎菌の推定ができるため,初期治療における最適な抗菌薬の選択に欠かせない検査法である.Gram染色鏡検は,細菌の形態やGram陽性・陰性から菌種を推定できるだけなく,好中球の貪食像や炎症反応の有無,結晶の存在(関節液でピロリン酸カルシウムなど),抗菌薬治療前後における治療効果の判定など,得られる情報は計り知れない.また,Gram染色所見は,培養環境,追加の培地,培養期間など分離培養条件の変更へとつながり,生菌そのものを得ることに寄与できる.例えば,Gram陰性短桿菌が多数観察されたにもかかわらず,培養翌日にチョコレート寒天培地にも集落の形成を認めなかった場合には,百日咳菌を想定して,ボルデー・ジャング(Bordet-Gengou)培地での追加培養が必要である.また,Gram染色で染まらないガラス傷のように透けて見える(2016年 午前69)場合には抗酸菌染色を追加で行い,菌体が観察されれば小川培地や液体培地での培養を行う.このように,Gram染色鏡検は追加の染色や培養・同定検査の方向づけを行う“羅針盤”の役割も担っている.
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