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はじめに
E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)は,E型肝炎と呼ばれる急性肝炎の原因ウイルスである.E型肝炎は,古くから知られている肝疾患であり,かつては衛生環境が整っていない熱帯・亜熱帯地方の発展途上国での風土病的流行性疾患として位置付けられていた.そして,日本を含め先進国では,E型肝炎は,アジアやアフリカの流行地域でHEVに感染した人が帰国後に発症するまれな輸入感染症の1つと見なされていた.
しかし1997年に,このような認識を大きく転換させることになる2つの重要な発見があった.その1つは,米国の豚から人のHEVに似たウイルスが分離されたことであり1),2つ目は,流行地域への渡航歴のない米国の急性肝炎患者がE型肝炎と診断され,豚HEV株と近縁のHEV株が分離されたことである2).これらの発見が発端となって,その後,欧米各国や日本において,非A,非B,非C型急性肝炎患者や家畜豚などから,流行地域に分布している遺伝子型1型や2型のHEV株とは異なる,新しい遺伝子型である3型や4型のHEV株が相次いで分離された.そして,先進国にも固有の3型や4型のHEV株が常在し,それまで原因不明とされていた散発性の急性および劇症肝炎患者の一部は,実はE型肝炎であったこと,またE型肝炎はA〜E型までの5種類のウイルス性肝炎のなかで唯一,人獣共通感染症であることが,最近の十数年の間に明らかになった.1型と2型のHEVが感染するのはヒトのみであるが,3型や4型のHEVはヒトのみならず,豚や野生イノシシ,鹿,マングースなどにも感染している3).
HEV感染は通常,一過性である.しかし,HEV感染のもう1つの重要な特徴は,臓器移植患者やHIV(human immunodeficiency virus)感染者,免疫抑制剤を投与されている患者に感染した場合に慢性化する点である4).
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