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最近の発癌研究におけるbreak-throughはなんといっても,anti-oncogene(癌抑制遺伝子)の研究が挙げられるであろう.
oncogene(癌遺伝子)は,相同染色体のいずれかの一方の対立遺伝子に異常が起これば十分で,癌化という面に関しては優性的に働く遺伝子(優性癌遺伝子)である.ところが,anti-oncogeneは,相同染色体に存在する対立遺伝子の両方に変異が起こることが必要であり,癌を引き起こすことに関しては,劣性に働くため劣性癌遺伝子ということになる.最近の癌研究によれば,oncogeneよりむしろ,anti-oncogeneのほうが,特に固型腫瘍においては,癌化とのかかわりが注目されている.生体には,交感神経と副交感神経があり,それぞれがバランスを保っているように,細胞においても,oncogeneとanti-oncogeneという相反し拮抗するもののバランスの上に,健全な営みがなされているものと考えられる.そもそもanti-on-cogeneの研究は,1971年,Fox Chase Cancer Center(Philadelphia)のAlfred, G. とKnudson, Jr. が遺伝性,非遺伝性のretinoblastoma(網膜芽細胞腫)の遺伝学的解析から腫瘍の発生には,2回の突然変異が必要であるという,単純明快な有名な"2 hit theory"を提唱したことに始まる1).その後,1978年Yunisらによって,retinoblastomaには染色体13q14に欠失が見られることが報告され2),retinoblastomaにまつわる変異の一つが染色体13q14に存在することが示された.さらに,1983年Caveneeらが,DNA多型性,restriction flagment length polymorphism(RFLP)の手法を用いて,変異の標的の第2の遺伝子は,正常のまま存在している相同染色体の対立遺伝子であることを示した3).ここに,Knudsonの仮説は,実体を帯びてきた.
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