感染症の検査法 わだい
菌株保存法—特にゼラチン・ディスク法によるCampylobacter属菌の保存
浅井 良夫
1
1神奈川県衛生研究所細菌病理部
pp.592
発行日 1989年5月15日
Published Date 1989/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543204988
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細菌学の研究を発展させていくうえでの問題の一つに菌株の保存方法が挙げられる.これには原株のもつ性状の変化を極力防止する点から,細心の注意と努力が要求されている.比較的抵抗性の強い菌では,単に栄養分の少ない半流動培地や寒天斜面培地などに接種し,密栓すれば,数年以上保存可能であるが,それができない菌では短期間での継代を続けねばならない.
細菌を変異あるいは死滅させず,継代することなくつねに同じ条件で保存する方法として,一般に菌株を乾燥状態において低温に保存するのがもっとも信頼できる方法と考えられている.乾燥による保存法は,細胞内水分の大部分を占める自由水を乾燥させて,代謝機能の場である液相を除いて代謝を停止させ,休止させた状態で長期間生存を図るものである.その乾燥方法の相違から,昇華による固相からの乾燥法である凍結乾燥法と,蒸発による液相からの乾燥法であるゼラチン・ディスク法とが行われている.前者は操作が煩雑で高価な装置を必要とし,一般検査室で実施するのは容易でない.後者はStamp1)により開発されたもので,あらかじめ細胞を凍結させることなく,水分を真空下または常圧下で蒸発乾燥させる方法である.その後,坂崎2),山井ら3)により改良され,分散媒組成に検討が加えられて,Neisseria gonorrhoeae(淋菌)やNeisseria meningitidis(髄膜炎菌)の保存に応用されている.また小原ら4,5)はコレラ菌を除く,今まで保存困難とされてきた細菌が長期間安定に保存でき,それらの菌株の輸送法としても良好な成績が得られたと報告している.
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