エトランゼ
一宿一飯のギリ
常田 正
pp.179
発行日 1986年2月1日
Published Date 1986/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543203585
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『菊と刀』の中でルース・ベネディクトは日本人の義理を重んずる国民性を指摘したが,それは昔のことです.昔は確かにヤクザ者ですら一宿一飯のギリを重んじたものですが,あの戦争に負けて以来ギリもニンジョウもすたれました.
日本人のK先生とアメリカの某大学で知合ったのです.会うといつも「ご一緒に食事でもしたいですね」と親しげにもらしていました.私がいよいよその大学を去るとき,お別れの意味で夕食を一緒にしましょうと申しこんで,町のチャイニーズ・レストランで二人で会食をしました.当時,留学生同士の仁義では,勘定はワリカンだったものです.でも彼の方が年も格も上ですから,ひょっとしたら彼が無理しておごるのではないか,なんて考えていました.給仕に勘定書をもって来させたとき,なんとK先生に「ドーモゴチソーサマデシタ」と言われてしまったのです.私は,最後の10ドル札をはたいてしまいました.
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