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いままでEscherichia属といえばEscherichia coli(大腸菌)のみしか知られていなかったが,1980年に刊行された細菌承認名リスト(Approved Lists of Bacterial Names)1)には,E. coliのほかに,E. adecarboxylataおよびE. blattaeの2菌種が認められているし,また本年にはE. hermanniiおよびE. vulnerisの2菌種がリストに追加され2),結論として現在のところではEscherichia属には5菌種が国際的に承認された名称として含まれることになる.なお,これら以外にはE. fergusoniiと命名される予定の菌種があり,近い将来にはEscherichia属に6菌種がおかれることになるであろう.これらの新菌種に該当する菌株は,E. blattaeを除いて,すでに臨床材料や食品から多数分離されており,臨床細菌学の面では日和見感染菌としての同定が必要であろう.これら6菌種の鑑別性状は表のとおりである.市販同定キットにはこれらの菌種をそのプロファイルインデックスに含まないものが多く,そのようなキットでは他菌種として同定されるので注意しなければならない.
同じ属に含まれるとはいえ,これらの菌種は相互にまったく無関係で,「Escherichiaに含まれるからE. coliと同じに扱ってよいだろう」などと考えるのは大まちがいである.一つの属には遺伝学的に近縁の菌種を集めるのが分類の原則であるが,これらの菌種に限っていえばE. coliとの遺伝学的関係はなく,また各菌種相互間はもちろん,他の腸内細菌の菌種とも関係しない.すなわち,これらの菌種はそれぞれ独立した新しい属に含まれるとみなすべきものである.それにもかかわらず,これをEscherichia属にいれているのは,いたずらに種属を設けて分類を複雑にすることを避けるためで,これらの菌がVP-,H2S-で,どちらかといえばEscherichiaに入れておいたほうが同定上便利であるという暫定的処置にすぎない.同様なことはすでに他の属にもあり,たとえばEnterobactersahazakiiはEnterobacter属のどの菌種とも無関係の菌種である.
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