文豪と死
樋口 一葉
長谷川 泉
1
1医学書院
pp.552
発行日 1977年7月1日
Published Date 1977/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543201416
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樋口一葉(1872〜1896)は満24歳の生涯の間に,女流作家としては画期的な文業をあげた.今日でこそ,芥川賞作家にも女流作家が選ばれるようになり,男性作家に伍して立派な活動をしているが,明治時代にはまだ女性が家庭に拘束される封建的な時代であったから,女性は文学をやるよりはまず家事にしばられて社会的活動をする条件に乏しかった.
その意味で,女性がほんとうに解放されたのは終戦後のことである.一葉は,そのような日本の悲しい封建的女性の姿を文学作品に定着した.一葉の前には「藪の鶯」という作品を書いて認められた三宅花圃のような女流作家がいたが,女流作家そのものが珍しい時代であった.「源氏物語」を書いた紫式部のような優れた女流作家を日本の文学史は持っているのであるが,それは平安朝時代の特殊な時代のことであって,その後,女流作家はふるわなかったのである.
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