検査の昔ばなし
血糖測定
柴田 進
1
1川崎医大内科
pp.124-126
発行日 1976年2月1日
Published Date 1976/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543200991
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私が京都大学医学部を卒業して母校の内科第一講座で実地修練を始めたのは,昭和12年,今から実に38年も前のことである.そして私の血糖定量の思い出もここまでさかのぼる.講座の主任は内分泌学の先達であった辻寛治教授で,病舎では甲状腺と糖尿病患者がたくさん治療を受けていた.このように耐糖試験をぜひ必要とする患者がいるのに病舎で血糖を定量する設備がなかった.研究室でウサギの実験をして学位論文の仕事をしている先輩の先生に患者血液をお願いして,ウサギの血液の間にはさんでHagedorne-Jensen法(H-J法)で血糖を測っていただいた.
しかしこれではいけないではないかというわけで,入局1年にもならない青二歳の私は自分で病舎において血糖測定ができるようにしたいと考えた.だが実際に患者に糖質を負荷し,3時間にわたって間歇的に採血し,硫酸亜鉛・水酸化ナトリウム混液に混ぜ,加熱し,脱脂綿をつめた漏斗でこして濾液を集め,アルカリ性赤血塩を加えて加熱,糖により赤血塩を還元し,残存赤血塩を酸性に……最後にチオ硫酸ナトリウムで滴定を済ますのに多大の時間を要することを知った,前夜病舎に泊り込み,午前6時半から活動を開始し,やっと終了して窓外に眼をやれば暮色蒼然たる有様であった.これでは糖尿病患者1人を受け持っただけで1日振り回されて,修練もあったものではない.私にとっては辻内科医局時代のこの体験が身にこたえて,H-J法から脱却し,たとえ精度は悪くても簡便な血糖定量法を開発しない限り糖尿病患者の良心的治療は不可能であると思った.
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