- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
生化学検査における分析精度には,分析装置の性能の向上や診断薬の改良など目を見張るものがある.一方で,従来の分析精度では見えていなかった誤差も,その要因の解明が可能となってきた.このような状況下において,分析装置,診断薬以外にも分析に起因する1つとして,分析装置に供給される純水の水質の影響が見えてきた.各分析装置で若干の構造の違いはあるにしろ,純水は,試料・試薬分注,攪拌,洗浄機構および恒温槽など,さまざまな部分に供給されている.
一般的な分析装置に用いられる純水の精製は,逆浸透膜(reverse osmosis:RO)-イオン交換方式の純水装置が多く導入されている.ROによって不純物を除去したRO水を,さらに,イオン交換樹脂で脱イオンして純水としている.この方式は,イオン交換樹脂の飽和が近づくにつれて導電率が上昇してしまい,水質劣化が生じるため,イオン交換樹脂の定期的なメンテナンスが欠かせない.メンテナンスを怠り,分析装置メーカーが規定する導電率を上回る水質規準で稼動した場合,分析結果への影響が取りざたされている.
本稿では,筆者が飽和状態に近づけたイオン交換樹脂を用いることにより純水の水質を劣化させ,検査データに及ぼす影響について検討したことを中心に述べる.このことは,災害時のように高純度な純水が確保できない場合の分析にもかかわってくる.災害後の電力,ガス,水道といったライフライン復旧,特に水道の復旧には長い時間を要するため,水不足によって検査室の機能が大きく損なわれる事態を招くこともある1).やむを得ず分析装置へ劣化した水質の水を供給することを迫られた場合も,水質が分析装置に及ぼす影響をあらかじめ把握しておくことで,ある程度のリスク管理が可能となる.
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.