疾患と検査値の推移
妊娠と糖尿病
安日 一郎
1
1独立行政法人国立病院機構長崎医療センター産婦人科
pp.1219-1226
発行日 2010年12月1日
Published Date 2010/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543103002
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はじめに
妊娠中の母体の糖代謝は非妊時(妊娠していないとき)とは大きく異なっている.正常妊娠による母体の糖代謝は,非妊時と比べて,食後血糖値の上昇をきたし,一方,空腹時血糖値は非妊時より低下する(図1)1).こうした妊娠時の糖代謝生理的変化を背景にして,妊娠前にもともと糖尿病のある女性(妊娠前糖尿病)は,その糖代謝は妊娠によって増悪する.また,妊娠前には耐糖能正常だった女性が妊娠による耐糖能負荷によって高血糖状態を発症する(妊娠糖尿病).こうした妊娠による糖代謝変化への対応を怠ると母体,胎児,そして新生児に重篤な周産期合併症を発症する.“妊娠と糖尿病”は周産期医療においても,また内科的管理においても大変重要なテーマである.
さて,2010年には日本糖尿病学会による糖尿病の新しい診断基準が導入されたが,“妊娠と糖尿病”に関して臨床的に大きな転機を迎えた年ともなった.2010年2月,国際糖尿病妊娠学会(International Association of Diabetes and Pregnancy Study Group,IADPSG)から妊娠糖尿病の新しい国際標準診断基準が提案され,わが国でもその新診断基準をもとに妊娠糖尿病の定義と診断基準の変更が行われた(表1)2).
本稿では,妊娠中の耐糖能異常の診断と検査について概説するとともに,妊娠糖尿病の診断基準の変更を中心に,最近の“妊娠と糖尿病”を巡る話題について解説する.
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