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はじめに
昨年4月,メキシコでブタを感染源として発生した新型インフルエンザ〔パンデミック(H1N1)2009〕は,またたく間に世界中に感染地域が拡大,患者は急増し,パンデミックとなった.当初,死亡率が高いような予想報道が海外からあったため,強毒性の鳥インフルエンザ発生を危惧していた日本行政当局は,対応に苦慮し,一般の人たちは感染症の怖さに震撼させられた.空港では水際作戦として発熱した入国者をサーモグラフィでチェックし感染患者の入国を阻止しようとした.しかし予想されたことではあるが,発症前の潜伏期間中の入国者の発見には効果がなく,日本中に蔓延していった.各医療関係機関は「発熱外来」を設けて,ほかの患者との接触を避け,感染拡大を防止するための対応に奔走した.幸い弱毒株で,致死率も季節型インフルエンザに比較しても低かったため,感染拡大の収束とともに冷静な対応がとられるようになった.
幸いなことにこの新型インフルエンザは,遺伝子型別では季節性インフルエンザH1N1 A型と同じ型で,治療として抗インフルエンザ薬のタミフル(R)やリレンザ(R)が有効であった.また,例年流行する季節性インフルエンザA型と同型で,迅速検査キットであるインフルエンザ簡易検査キットでウイルスの検出が可能であり,診療の現場で迅速に結果の判定ができた.そのために直ちに適切な治療が実施できたのが,重症化しなかった大きな原因の一つであろう.感染症に対する迅速検査の有用性が示された事例といってよい.
感染症を診断する立場から,感染症簡易迅速検査キットを使用すべき条件は,(1)伝染性の強い感染症か否かを判断しなければいけないとき,(2)その感染症がすぐに治療開始すべき疾患であること.そして(3)対象とする感染症に対する治療方法が確立されていること,と考えられる.一方,感染症簡易迅速検査キットの面からは,汎用される条件として,(1)操作性がよいこと,(2)感度がよいこと,(3)安価であること,が挙げられる.そして(4)遅くとも検体提出後30分以内で結果が得られるキットであることが重要と考える.
本稿では,抗原検出方法を採用している感染症簡易迅速検査キットを中心に,(1)現在市販されている感染症簡易迅速検査キットの紹介,(2)測定原理,方法の説明,(3)検体採取のタイミングと方法,(4)使用に際しての注意点,(5)今後の課題を述べる.
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