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はじめに
上皮増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)は細胞膜上に存在する分子量170kDaのチロシンキナーゼ受容体で,①細胞外の受容体部分,②細胞膜貫通部分,③細胞膜近傍部分,④チロシンキナーゼ部分,⑤C末端部分から構成される.同様の構造をもったEGFRファミリーには,human EGFR2(HER2)(別名ERBB2),EGFR3(HER3),EGFR4(HER4)がある(図1).リガンドであるEGFやTGFα(transforming growth factor α)が受容体に選択的に結合すると,EGFRどうし(homo-dimerization),もしくは他のEGFRファミリーメンバーと2量体を形成する(hetero-domerization).この結果,チロシンキナーゼの自己リン酸化が起こり,チロシンキナーゼが活性化され,C末端部分に存在する種々のチロシン残基がリン酸化される.このリン酸化チロシンを認識する分子や,これに結合する蛋白,酵素群が引き寄せられ,さらにリン酸化され,シグナルは次々と下流に伝えられて最終的には核に伝達され,各種の遺伝子の発現を促して,細胞増殖,分化,アポトーシスの回避,細胞周期促進を惹起する.シグナルを核内に伝える経路として,RAS-MAPK経路,PI3K/Akt経路,Jak/STAT経路の三つが重要である.MAPK経路は主に細胞の増殖と生存に関与するとされ,下流にはG蛋白質であるKRAS,セリン・スレオニンキナーゼであるBRAFがある.
近年,EGFRを標的とする抗体が開発され,大腸癌の治療に用いられつつあるが,その適応に関して議論があり,EGFR過剰発現,EGFR遺伝子変異,遺伝子増幅さらにはKRAS,BRAFなどの下流のシグナル伝達物質の異常などが治療選択の指標として検討されている.
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