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はじめに
真性赤血球増加症(polycythemia vera,PV)は,造血幹細胞レベルで生じた異常により過剰な骨髄系細胞の増殖をきたす骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms,MPN)の一病型であり,特に赤血球系造血の亢進を特徴とする.MPNにはこのほかにもいくつかの疾患が分類されているが,造血幹細胞レベルにおいて,チロシンキナーゼの恒常的な活性化をきたす変異が生じることが共通の病因と想定されている.
例えば,慢性骨髄性白血病(chronic myelogeous leukemia,CML)では相互転座によって形成されたフィラデルフィア染色体上のBCR-ABL融合遺伝子の産物が強いチロシンキナーゼ活性を示すことはよく知られている.PVについても,2005年に細胞質内チロシンキナーゼ分子の一つであるJanus kinase 2(JAK2)の遺伝子変異が高率(90%以上)にみられること,またこの変異によりJAK2の恒常的活性化が起こることが明らかになった.
その後の基礎および臨床研究の展開は急激であり,2008年に発表されたWHO分類の第4版では,JAK2変異の有無はPV診断における二つのメジャー・クライテリアのうちの一つの地位を占めるに至っている.さらに,JAK2変異の存在の有無を定性的に調べるだけでなく,その遺伝子座(allele)の定量化,すなわち“allele burden”は,血栓症のリスク予想や,ハイドロキシウレアあるいは現在開発が進められているJAK2阻害剤などの治療効果のモニタリングにも精力的に用いられている.わが国では,まだJAK2変異解析は個別に研究室レベルで行われているに過ぎないが,本稿では今後のPV診療に不可欠なこのJAK2変異解析の現状について述べる.
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