- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
メタボリックシンドロームに対する健診では,対象検査項目に対して“基準値”を設定し,その病態の診断と経過観察に利用しようとしている.その限界値は,日本動脈硬化学会,日本糖尿病学会,日本高血圧学会,日本肥満学会,日本循環器学会,日本腎臓病学会,日本血栓止血学会,日本内科学会の専門家よりなるメタボリック症候群診断基準検討委員会において,コンセンサス値として決められたものである.この“基準値”は,本誌の総説「基準範囲と基準値」のなかで記したごとく,メタボリックシンドロームを診療するための予防医学的閾値に相当し,臨床検査でいう基準範囲(健常者の測定値の95%信頼区間)とは異なる概念である.実際上,健診事業は決してメタボリックシンドロームだけを対象としているのではないので,検査値を解釈する目安となる基準範囲を十分に認識しておく必要がある.
ここで重要なことは,基準範囲とは健常者を対象として設定した検査値の生理的変動幅であり,その幅は,性別,年齢によって変化する点である1).また,検査項目によっては,食習慣,環境条件(気候,病原体),遺伝などの影響を受けるため,基準範囲は健常対象者が居住する地域によっても変化しうる.しかし,これまでの基準範囲に関する議論やその設定では,一部の項目で性別は考慮されることはあっても,年齢差や地域差が考慮されることはほとんどなかった.
筆者らは,これまで多施設の基準範囲の設定に関与し,ほとんどすべての検査項目に性差・年齢差があり,かつ一部の検査では地域差もあることを明らかにしている.本稿では,そのデータを整理して提示し,一般的な健診結果を特定健診の“基準値”のような単純な一つの数値で捉えるべきではなく,年齢・性別・地域を考慮してダイナミックに判断すべきであることを示す.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.