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疫 学
重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome;SARS)は中国広東省の仏山市出身のビジネスマンが第一号の患者とされている.その後の世界保健機関(World Health Organization;WHO)や研究者による疫学調査で判明したルートは次のようになっている(図1).中国広東省の病院の男性医師(64歳)が今年2月21日,親類の結婚式に出席するために発熱をおして香港へ.そしてメトロポールホテル9階に泊まった.同じホテルに宿泊した客から各国に伝わる一方,医師が入院した病院で職員70人,医学生17人に伝染した.同ホテルに知人を訪ねた男性(26歳)が発症してプリンスオブウェールズ病院に入院し,職員や患者,見舞客らに次々と院内感染.腎不全で通院中の男性(33歳)も感染した.この男性の弟が,約300人の集団感染を起こすことになるアモイガーデンE棟の住人で,男性はそこに4日間滞在した.同ホテルに泊まっていたカナダ人夫婦が2月23日,トロントに帰った.2日後に妻(78歳)が発熱や咳などの症状を示し,3月5日に自宅で死亡した.同居の息子(43歳)も発症,市内の病院の集中治療室で亡くなった.息子を診察した医師や同室の患者に感染していった.同ホテルに滞在した米国人ビジネスマン(48歳)が2月26日,訪れたハノイで発症して入院,3月20日までに22人に院内感染した.
この病院にWHO所属の感染症専門家カルロ・ウルバーニ医師(46歳)が勤務.WHOに新型肺炎として報告し,集団感染勃発が世界に周知されるきっかけになった.その結果WHOはこの疾患をSARSと命名,3月5日global alertが出された1).WHOがこの種の警報を出すのは同機関が設立された1948年以来初めてのことである.ウルバーニ医師は自らも感染して3月29日に死亡した.このようにSARSは国際都市香港を舞台に飛行機を媒体として急速かつ広範囲に拡がったまさに現代病ともいえる新規の呼吸器感染症である.
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