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太古の時代から人類は病気の原因を追究してきたはずであり,その追究の手段は「観察と記録」であったと思われる.観察の対象は,最初は,患者そのものであったはずだが,17世紀後半頃から患者が出す尿,糞便などの生体成分にも対象が広がってきている.「観察」の行き着くところは「分析」であり,今日の「臨床化学」という学問体系に育ち上がったわけである.臨床化学体系の確立に決定的な役割を果たしたのは,1934年のFollingによるフェニルケトン尿症の発見である.患者の尿を分析することで病気の本態を突き止めることができる実例を示し,以後,臨床化学は確固たる学問体系として確立し今日に至っている.最近では,学問が細分化され「臨床化学とは生化学検査に関する学問」と勘違いする人々が多くなっているが,決してそうではなく,「臨床化学とは生体成分を化学的(科学的)に分析して,疾病発症の機序を明らかにするとともに疾病の診断治療に指針を提供する学問」である.
臨床化学(臨床検査といってもよい)の基本は生体成分の科学的定量分析であり,科学的定量分析に必要なものは「正確性」と「精密性である.分析された結果の測定値は再現性があり,その測定単位(dimension)が同じであれば,その数字を単純に比較検討できなければならない.残念ながら,これまでの臨床化学分析は科学的定量分析とは言い難い部分があった.「臨床検査測定値はそれぞれの病院に特有なものであり,患者が転院すれば検査はやり直すのが当然で,別の病院の臨床検査データは利用できない」のがこれまでの臨床化学分析であった.しかしながら,現在では,検査試薬の整備と分析機器の発達により臨床化学分析に普遍性が備わり,別の病院の臨床検査データを共通に利用できる(臨床検査データの標準化)環境が整ったといってよい.臨床検査に関わっているわれわれの認識を改めるだけで,臨床検査データの全国的な標準化は可能になりつつある.臨床化学の当面の重要課題の一つは,地味ではあるが,臨床検査データの国内的な標準化の完成である.検査データの標準化が進めば,臨床検査のデータベースが完備し疾病の診断・治療基準が標準化され,日本の医療の質が格段に上がることになる.
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