特集 生検の進歩
II 生検に応用できる技術
6 癌と増殖因子(EGF,TGF)
田原 榮一
1
Eiichi TAHARA
1
1広島大学医学部第一病理学教室
pp.1394-1400
発行日 1987年10月30日
Published Date 1987/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542913498
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はじめに
癌のもっとも特異的な性質の一つである自律性の無限増殖には,癌細胞から産生される増殖因子(growthfactor)・レセプター系が関与しており,特に,癌細胞みずから増殖因子を産出し,同時に,そのレセプターを介してそれに応答するという"autocrine"システムの存在が論じられている1).そして,癌細胞から産出される増殖因子としては,TGF(transforming growthfactor)をはじめとして種々のものが見いだされているが(表1),現在のところ癌細胞にのみ特異的なものはない.また,すべての癌細胞に共通のものも明らかにされていない.さらに,興味ある点は,増殖因子・レセプター,そのシグナル伝達系と癌遺伝子産物との間に構造的ならびに機能的相同性があることである(表2)2).そのうえ,増殖因子は,癌遺伝子産物の生物学的活性,あるいは癌遺伝子の発現を調節している.例えば,EGFは,ras p 21およびポリオーマmiddle T蛋白のリン酸化や,ras p 21のGTP結合能を充進させる2).また,PDGF,FGFおよびEGFはmycおよびfosmRNAの発現を亢進させ,一方,ras,mos,fes,fms,およびablの過剰発現は,TGFαおよびTGFβの産出,あるいは分泌を増加させる.また,TGFβは,sisの発現をも誘発する3,4).
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