感想
速記録「臨床化学検査のバラツキ」を読んで—主催者側にいま一つの親切を望む
斉藤 正行
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1東大分院臨床化学科
pp.67-68
発行日 1963年1月15日
Published Date 1963/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542906067
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化学定量分析というものは複雑な因子(試料,試薬,手技,機器,温度など)の総合のもとに,ある数字が出るが,それが果して正しい値であるかどうかはほんとうにわからないものである。まして臨床検査室のごとく,とてつもなく複雑な組成である体液を試料とし,微量かつ迅速に,更に多数を一度にということになると専門の分析化学者はちょっとためらう。それをわれわれがやってのけられるのは化学に素人ゆえの心臓のせいばかりでなく,医療メンバーとしてのヒューマニズムの賜である。しかし救うつもりのデータがかえって誤診の材料を提供しては,せっかくの好意もアダとなる。何とかして正しい値を,そして診断をと努力しなければならない。その一つの反省ヒントを与えるものが今回のごときSurveyである。これらのデータは各検査室がまず正しいと思って送って来た答えであり,同一試料であるから各成分値は一つの値しかない。もちろん測定誤差を考慮しなければならないからある値の幅は許容されるが,それにしてもバラツキが大きすぎる。ただこれを見てわが国の検査室が外国の水準よりひどく低いということは早計で,本誌にも紹介(4巻,44〜45頁)したごとく国際水準並にやっとなったと言えよう。今まではそういうデータを見ても「まさか」と他人事に考えていたのが,現実として素直に直視せねばならなくなっただけである。
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