高級技術講義
測定誤差論
土肥 一郎
1
1東京大学医学部物療内科
pp.267-273
発行日 1958年5月15日
Published Date 1958/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905461
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1.緒言
観察の結果を数値で表すことは,より精密な知識を求める人間の欲求が定性的な見方から定量的な見方に進む方向を辿る結果として,医学,生物学のあらゆる分野に入りこんできている。確かに,数値で表された性質は吾々に或る決着感,安心感を与えるが,却つてその為に吾々はその数字のもつあやふやさを忘れかけるものである。定性的表現は,それ自身の持つあいまいさ故に,これを受けとる側にも,いわば充分の心構えがあるともいえよう。数字による表現を見た場合,吾々は第一にそれが抽象的な数字でなくて具体的な数字であることを念頭に置かなくてはならない。例えば抽象的な数字としての152は152.00とも152.0000とも同一と見てよいが,具体的な数字である観測値の場合は,この3つの持つ意味は全く異つて居り,段違いの観測精度を示している。このことは,観測値に就て何等かの加減乗除を行わねばならない場合に大切なことで,不必要な計算の手間をかけて意味のない数字を羅列する誤りをしてはならない。
定量的表現では,これに伴うあいまいさも数値的に表される。これに対して誤差ということばが漠然と使用されて居り,正しく定義され使用されている誤差にも幾種類かがあるので,これらの各各に就ての定義と立場を明かにしておく必要があると思われる。誤差論の対象となるのは偶発誤差といわれるもので,これは,その発生に系統立った所がなかつたり,また発生の個所は見当ついて居るがこれを測定の各段階から消去することが困難な為に,みすみす測定1直内にまぎれこむことを許している様なものである。例えば或る血中物質儂度を測る場合についていえば,
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