発行日 1957年8月15日
Published Date 1957/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905363
- 有料閲覧
- 文献概要
今は臨床医学に於けるEpochmakingな特徴の一つは何と云つても臨床検査法の発達を挙げねばならない。欧米は申すに及ばず吾国に於ても各病院に中央検査室が設置され,日一日此れが重要な地位を確保しつゝあるのは周知の事である。貴い患者の生命をあずかる吾々臨床家にとつて,正しい診療の第一条件は云うまでもなく正確な診断即ちあらゆる手段を通じて疾病の本態をはつきり把まえる事であるが,従来所謂名医として持て囃された医師の中には,病室に入つた瞬間ピタリと病名を当てるとか,聴診器を電光石火のスピードで胸にあてて直ちに診断をつけ,大いに名声を博していたと云えば叱られるかも知れない。然し現在でもこの様な名残りが全然ないとは果して云いきれるだろうか。勿論医師としての長年の経験とか第六感は充分尊重すべきは論を待たないのであるが,あらゆる科学がかくも目覚しく進歩を遂げた今日,疾病の分析もあくまでも科学的でなければならない。斯くして臨床検査法の急速な発展はケレンペレル診断学等を既に古典的なものとして仕舞つた。重ねて申し上げるが今日の診断学は近代化学,物理,生物学,機械学,其の他あらゆる進歩的科学に立脚し且つ此れを完全に駆使し得る技術の上に立つたものであるべきである。こうして新しい検査室から生れ出た正確な成績をば深い学識を以つて判定し疾病と,とりくむ医師こそ本当の名医と云つても云い過ぎではないだろう。
Copyright © 1957, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.