特集 臨床検査の新しい展開―環境保全への挑戦
Ⅱ.環境問題と疾病
2.酸性雨と地球環境,疾病
1)酸性雨によってもたらされるもの
福岡 義隆
1
Yoshitaka FUKUOKA
1
1立正大学地球環境科学部
pp.1263-1268
発行日 1999年10月30日
Published Date 1999/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904216
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はじめに―有名なスモッグエピソードのほとんどが酸性雨
大気汚染の歴史は,酸性雨の歴史でもある.イギリスに始まった産業革命以来,石炭という化石資源の燃焼により,石炭に含まれる硫黄分がSO2,SO3など硫黄酸化物の形で大気中に排出されてきた.これらの酸性物質が雨粒・雲粒・霧粒に取り込まれて,酸性降水になるのであるが,すでに1872年にはイギリスの化学者ロバート・アンガス・スミスによってAcid Rainと命名されていた.その後,欧米の各地でローカルではあるが酸性霧などによる大気汚染の事故(スモッグエピソード)があり,死者も出るほどであった.そのなかでも特筆されるものとしては,ミューズ(ベルギー)・ドノラ(米国)・ロンドン(英国)での大スモッグ事件がある1).
ミューズ川はフランス・ベルギー・オランダを流れる川で,ベルギーの工業地帯がそのミューズ渓谷に立地する.そこで1930年の12月上旬の1週間,無風下のもとに霧混じりのスモッグが発生した.その結果,多数の人々が呼吸器疾患におかされ,60人が死亡した.急性呼吸器疾患の症状は,主に空気にさらされている粘膜の刺激症状で,胸・咳・呼吸困難などのほか,眼の刺激症状もあったとされる.正確な大気汚染の測定はされていないが,推測で亜硫酸ガス濃度にして9.6~38.4ppmくらいだろうという.大変な高濃度である2)
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